ガスタービンは高出力・高効率を実現できるため航空機用ジェットエンジンや船舶用エンジン、発電等に幅広く使用されており、私たちの社会活動を支えています。内部流班では、ガスタービンの一種であるジェットエンジンを主な研究対象としており、実験と数値シミュレーションを合わせて研究課題に取り組んでいます。実験では、ジェットエンジン内部の流れを再現する翼列風洞や小型のジェットエンジン実機等を用いて研究を行っています。数値シミュレーションでは、主にJAXAが開発中の数値流体力学(CFD)ソルバー「UPACS」を用いて研究を行っています。またJAXAに派遣された学生はジェットエンジンの着氷現象や航空機騒音に関する研究を進めています。
航空機のジェットエンジン騒音低減を目的として、排気ノズルの後縁部をギザギザにしたシェブロンノズルが採用されています。しかし、シェブロンノズルには騒音とともに推力も低下させてしまう問題があります。本研究では小型ジェットエンジン (JetCat社製) を用いたノズルの性能実験とコンピュータを用いた数値シミュレーションによって、ジェット騒音を低減し、推力低下を最小限にするようなノズルの提案を目指しています。
格子ボルツマン法によるジェットの流速分布シミュレーション
格子ボルツマン法によるジェットのQ値分布シミュレーション
航空機の原動機であるジェットエンジンの圧縮機には一般に、軸流圧縮機が用いられています。今日ジェットエンジンは燃料消費率の向上が求められている中、圧縮機にも効率の向上などが求められます。圧縮機は扇風機のように羽根が環状に並んでおり、高速回転をすることにより空気を圧縮しますが、環状のままだと遠心力やコリオリ力の影響などの影響が加わってしまい、純粋な翼列の現象を捉えるには非常に複雑な現象となってしまいます。そのため本研究室では環状の羽根を直線に配置した「直線翼列」を用いることでこれらの影響を排除した現象を研究しています。また、実験とコンピュータ解析を用い、お互いの長所を生かしながら研究に取り組んでいます。
直線翼列風洞による実験風景
軸流圧縮機は回転数を高くしすぎると内部の空気が乱れ、航空機の事故に繋がってしまいます。本研究では回転翼の翼端に溝加工を施し、翼端付近の空気の流れを安定化させることで、回転数を高くしても内部の空気が乱れにくい翼端溝形状を数値シミュレーションにより研究しています。実験で様々な模型を試すためには模型製作等に多大なコストと時間がかかってしまいます。そこで、まずコンピュータによる数値シミュレーションを様々な形状に適用し、軸流圧縮機内部流れの改善に適した形状を見つける研究を行っています。安全で且つ環境に優しい航空機の実現を目指し、日々研究に取り組んでいます。
翼端溝加工による回転翼周りの流れの変化
軸流圧縮機は環状に並んだ翼列と、これを囲う外側からできており、この外壁の内側に溝を掘ることで安全性が高まることが知られていますが、同時に外壁と翼列の隙間を漏れる流れを増やしてしまい効率を下げることも知られています。そこで外壁はなく翼端に溝を加工することで効率の低下を最小限に抑えたうえで安全性を上げる研究をしています。
最適な翼形状を探すうえでコンピュータによるシミュレーションは、翼模型の製作に掛かるお金と時間を削減できるため、様々な形状について検討できるという優位性がある一方で、計算誤差や近似による影響を含んでいます。そこで本研究では圧縮機の環状翼列を直線状に模した直線翼列と、壁面との相対運動を満足するための可動壁を用いることで圧縮機内の環境を再現した直線翼列風洞を用いて、シミュレーションで失速特性の改善効果が見られた形状の翼模型を作成し、翼周りの流れを計測し、計算結果と比較することで、翼の評価を行っています。
レーザードップラー流速計を用いた計測の様子
航空機において、氷が付着する「着氷現象」は航空機の性能や安全性に悪影響を及ぼします。ジェットエンジンに着氷が発生するとエンジンの性能低下や氷によるエンジンの損傷 を招くため、氷を除去し且つ着氷を防止する必要があります。本研究では、近年ジェットエ ンジンの最前部にあるファンブレードに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられ始 めていることに着目しました。CFRP は電流を印加すると発熱する特性があることから、発 生する熱を利用した新しい防除氷技術について、JAXA と共同で研究しています。
CFRP試験片への着氷の様子