内部流班

M2   野老山 将悟,   沼野 翔泰

M1    中澤 巽,   横山 貴大

B4    田村 風太

ガスタービンは高出力・高効率を実現できるため航空機用ジェットエンジンや船舶用エンジン、発電等に幅広く使用されており、私たちの社会活動を支えています。内部流班では、ガスタービンの一種であるジェットエンジンを主な研究対象としており、実験と数値シミュレーションを合わせて研究課題に取り組んでいます。実験では、ジェットエンジン内部の流れを再現する翼列風洞や小型のジェットエンジン実機等を用いて研究を行っています。数値シミュレーションでは、主にJAXAが開発中の数値流体力学(CFD)ソルバー「UPACS」を用いて研究を行っています。またJAXAに派遣された学生はジェットエンジンの着氷現象や航空機騒音に関する研究を進めています。

ジェットエンジン騒音低減に向けたノズルの開発

航空機の騒音の中にはジェット騒音と呼ばれるものがあり、排気ノズルからのジェットとその周囲空気の速度差から発生します。一般的にジェット騒音低減を目的として、排気ノズルの後縁部をギザギザにすることで縦渦を誘起し、周囲空気とジェットを混合することで速度差を緩やかにして騒音を低減するシェブロンノズルが採用されています。しかし、シェブロンノズルには騒音の低下とともに、シェブロンが排気ジェットに切り込むことで推力も低下させてしまう問題があります。私たちは流体を吸い込むエジェクター効果を利用して、ジェットと周囲空気との間に流速の中間層を作ることで速度差を緩やかにすることを考えています。また、流量が増えることで推力の増加も見込めます。本研究では小型ジェットエンジン (JetCat社製) を用いた実験とコンピュータを用いた数値シミュレーションによって、ジェット騒音を低減し、推力を増加させるようなエジェクターノズルの提案を目指しています。

小型ジェットエンジン(JetCat社製)

JetCat の運転動画はこちら

CFRPの発熱特性を利用した防除氷技術に関する実験的研究

過冷却状態の液滴が物体に衝突した際に氷層を形成する現象は「着氷現象」と呼ばれ、航空機への着氷は飛行性能や安全性に悪影響を及ぼします。そのため、氷が付かないようにする「防氷」と氷を取り除く「除氷」が機体各部で行われています。

ジェットエンジンに対する防除氷技術としては、入り口部に対する「電熱ヒーター」や、圧縮機後段部の高温空気をエンジン前方に送り込む「ブリードエアシステム」などが使用されていますが、最前部にあるファンブレードに関しては薄い形状と厳しい強度要求を持つことから上述のような着氷対策は現在行われておりません。

本研究では、近年のファンブレードに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が利用され始めていることに着目しました。CFRPは電流を印可すると発熱する特性があることから、この特性を利用してファンブレード自体を発熱させる新しい防除氷システムをJAXAと共同で研究しています。現在、平板のCFRP片にて通電・発熱させることによる防除氷効果を確認できており、今後はより実際の条件に近い回転させた状態で実験を行っていきます。

CFRP試験片への着氷の様子

軸流圧縮機の失速特性改善

航空機の原動機であるジェットエンジンの圧縮機には一般に、軸流圧縮機が用いられています。今日ジェットエンジンは燃料消費率の向上が求められている中、圧縮機にも効率の向上などが求められます。圧縮機は扇風機のように羽根が環状に並んでおり、高速回転をすることにより空気を圧縮しますが、環状のままだと遠心力やコリオリ力の影響などの影響が加わってしまい、純粋な翼列の現象を捉えるには非常に複雑な現象となってしまいます。そのため本研究室では環状の羽根を直線に配置した「直線翼列」を用いることでこれらの影響を排除した現象を研究しています。また、実験とコンピュータ解析を用い、お互いの長所を生かしながら研究に取り組んでいます。

直線翼列風洞による実験風景

【数値シミュレーションによるアプローチ】

圧縮機翼列の翼端漏れ流れ制御による失速特性改善

軸流圧縮機は回転数を高くしすぎると内部の空気が乱れ、航空機の事故に繋がってしまいます。本研究では回転翼の翼端に溝加工を施し、翼端付近の空気の流れを安定化させることで、回転数を高くしても内部の空気が乱れにくい翼端溝形状を数値シミュレーションにより研究しています。実験で様々な模型を試すためには模型製作等に多大なコストと時間がかかってしまいます。そこで、まずコンピュータによる数値シミュレーションを様々な形状に適用し、軸流圧縮機内部流れの改善に適した形状を見つける研究を行っています。安全で且つ環境に優しい航空機の実現を目指し、日々研究に取り組んでいます。

翼端溝加工による回転翼周りの流れの変化

【実験によるアプローチ】

軸流圧縮機の失速特性改善に向けた翼端溝加工の評価

軸流圧縮機は、環状に並んだ回転翼と、それを覆っている筒状の内外壁からできています。ジェットエンジンの燃料消費率を下げるためにはエンジンの圧力比を上げることが有効ですが、圧力比を上げるために単に圧縮機の回転数を高くするのみだと回転翼が失速し、サージングと呼ばれる圧縮機が正常に機能しなくなる現象が起き、エンジン故障につながります。安全性を高める一つの手法として回転翼を覆っている壁(=ケーシング)の内側に溝を掘る方法がありますが、同時に壁と翼列の隙間を漏れる流れ(=翼端漏れ流れ)を増やしてしまい効率を下げることも知られています。本研究では翼端溝による軸流圧縮機の圧力比,効率の低下を最小限に抑えた失速特性改善を目標とし、ケーシングではなく翼端に溝を加工した翼を用いて、翼端隙間の流速分布及び圧力分布を計測することで翼端溝が流れに与える影響を調査しています。具体的には写真に示すような実験室の風洞装置で風を起こして直線翼列に風を当て、写真の流速計や圧力計測孔のついた翼を用いて翼端隙間の流速分布や圧力分布を計測しています。

レーザードップラー流速計を用いた計測の様子

圧力計測孔付き翼

2023年度 研究紹介ポスター