超音速班
M2 青景 壮真
M1 安部 翔太, 板谷 匠海, 笠石 丈二
B4 浅井 友彰, 岩田 雄太郎, 久保田 佑弥
"日々、研究を楽しむ"
我々人類にはまだまだ未知なる世界が存在します。足を踏み入れることすら困難な宇宙空間や深海、顕微鏡でさえ見ることのできないほど微小な量子力学的スケールを持つ世界など、その枚挙に暇がありません。さまざまな物理現象やその工学応用によって創られる新たな技術が、未だ見ぬ明日への扉を開き、好奇心と探求心を駆り立てます。まさにロマンと言えるでしょう!
18 世紀 英国の産業革命における蒸気機関の発明によって生活環境や文化は加速度的に変化を遂げ、現在に至るまで人類は工業化の道を歩んできました。その基盤とも言える輸送技術の進歩は特に目覚ましく、内部・外部流班の興味対象でもある船舶や鉄道、自動車、航空機を経て、現在では人工衛星や宇宙ステーション建設を目的とした超高速宇宙輸送にまで展開しています。さらに、火星への移住計画やはやぶさに代表される小惑星探査と、未来への道程に世界中の多くの人々が心奪われ関心を寄せています。
我々の班では高速流動現象の物理的な解釈とその工学応用に関して、コンピュータによる解析技術を道具として駆使し、様々な研究課題に取り組んでいます。現在の研究例の一部をご紹介します。
極超音速流内おける楕円錐模型周りの全体安定性解析
M2 青景 壮真
大気圏高高度を極超音速で飛行する旅客機の実現を目指してHIFiREという国際研究開発プロジェクトが進められています。世界中の極超音速風洞で空力加熱試験と数値解析が実施され、模擬飛行試験も行われています。超高速飛行中の機体前方には衝撃波が形成され、飛行条件によっては境界層が剥離または乱流化することもあります。その場合、高温衝撃層内の流体が乱流輸送によって壁面を著しく加熱するため、乱流状態へ遷移する位置を知ることは熱防御対策の根幹を成し極めて重要です。本研究では乱流へ繋がる流体不安定性の原因を、全体安定性解析と呼ばれる手法などを用い、擾乱成長を追跡することで考察しています。
楕円錐模型周りの壁面加熱率分布とマッハ数分布
境界層厚さ約90%位置における最大固有値に対する温度擾乱の固有モード分布(上図)と実験における壁面加熱率分布(下図)
超軌道速度で飛行する大気圏突入カプセル
M1 安部 翔太
打ち上げロケットに乗って宇宙空間まで達した宇宙飛行士は、カプセル型宇宙機に乗って地球へ帰還します。宇宙飛行士の命を運ぶ移動手段として非常に大事なカプセル型宇宙機は、過酷な加熱環境に耐えねばなりません。本研究では、流体力学に基づく数値シミュレーションを実施することで、猛烈な加熱率を精度良く予測できる解析技術の構築を目指しています。
また本年度から、プラズマを用いた分光計測実験を実施する予定です。大気圏突入環境を模擬した実験で得た結果を数値シミュレーションに反映させることで、計算結果の信頼性を高めます。
BWBリージョナルジェット機の形状模索と空力性能評価
M1 板谷 匠海, B4 竹森 幸平 (2019年度卒 唐澤 颯人)
近年、経済発展に伴った地域路線整備の発展やLCCなどの増加を背景に、小型機であるリージョナルジェットの需要が高まり、より高い機体性能が求められています。そこで、翼と胴体を一体化 (Blended Wing Body, BWB) した形状に着目しました。次世代大型機として提唱されている形状であり、従来形状と比較して空力性能とペイロードで勝ります。リージョナルジェット機においてもBWB形状が適するのか検討するため、流体計算と形状最適化を行い、新たなBWB形状を摸索しています。
BWB航空機まわりの流線と表面圧力分布
流束再構築 (Flux Reconstruction, FR) 法の計算コード開発
M1 笠石 丈二 (2019年度卒 田村 北斗)
Navier-Stokes 方程式は流れ場の密度や速度、圧力といった物理量の時間・空間変化を記述できる支配方程式です。その方程式系は複雑で強い非線形性を持ち、解析解の導出は世界中でも未だなされていません。数値流体力学 (Computational Fluid Dynamics, CFD) は流体力学理論を拡張し、近似的にではありますが Navier-Stokes 方程式の解を再現することを目指す学問です。航空機や宇宙機開発における CFD の持つ役割は非常に大きく、今日では定常流に対する低次精度近似であれば堅牢で信頼できる数値シミュレーションが可能となりました。こういった現状の元、次代を担うと期待される CFD 手法の一つが流束再構築 (Flux Reconstruction, FR) 法です。航空機実機形状まわりであっても高次精度を達成でき、効率の良い非定常乱流計算が実現されつつあります。本研究では FR 法計算プログラムの作成を原点として、航空機まわりの衝撃波と境界層を伴う流れ場における乱流計算の実現を大目標としています。
正弦波の伝播 CFD 計算結果 (上図 : 3次精度 FR 法 (厳密解を維持)、下図 : 1次精度 Lax 差分 (誤差で波が散逸))
ステップ波の伝播 CFD 計算結果 (リミッタ作用の確認。数値振動の制限OK)
アーク加熱風洞実験における異常輻射加熱現象の数値的研究
B4 浅井 友彰 (2020年度卒 砂辺 一行)
宇宙機の熱防御設計には加熱量の正確な予測が必須であり、その代表的な手段として風洞実験と数値解析がありますが、流れ場のより詳細な情報が得られることから数値解析が進められています。一方で、米国 NASA Ames 研究所に配備されている加熱量の予測実験設備の1つであるアーク加熱風洞では、数値解析による予測を大幅に上回る輻射加熱が観測されるという現象が確認されました。本研究では、流体と非平衡プラズマ、輻射の数値解析によって、これまで原因不明とされてきた異常加熱現象のメカニズム解明を目指しています。
特に今年度からは、非平衡プラズマ解析に分子の振動励起非平衡性を盛り込んだ、より実際の物理現象に近い非平衡モデルの開発を進めていきます。
アーク風洞気流内の発光スペクトル (左図) と供試体まわり計算結果の温度分布と実験写真との比較 (右図) (実験写真:鳥取大学酒井教授ご提供)
複雑形状機の3次元超音速流数値計算
B4 岩田 雄太郎 (2020年度卒 豊田 有里)
実際の航空機の空力設計には、風洞での実験とCFDによる計算の両方が使われています。非常に柔軟で有効なCFDの工学的活用を実現するためには複雑形状であっても、安定に計算できることが好ましいです。複雑形状であればあるほど、精度を向上させるとCFDの計算が不安定になりやすく、計算が破綻してしまうことが多いです。本研究では、複雑形状機データの取得から計算格子生成、 圧縮性流体のCFDの実行、流体構造連成計算までを含めた統合数値計算環境を構築すること目的としています。
ドラケンIII超音速飛行時の数値シミュレーション
低計算コストな音響計算コードの開発
B4 久保田 佑弥 (2019年度卒 廣原 和希)
航空機の離着陸時に大きくなる機体騒音の低減を図るためには、機体まわりの音響計算が必要です。音響計算において評価の対象となる音波は非常に微小な圧力波であるために、高精度かつ大規模な計算が必要となります。本研究室では、実際の航空機開発の現場において、高信頼かつ低計算コストな音響計算を実現できる新たな計算コードの開発に挑んでいます。
円柱まわりの音響計算結果 (左図) と円柱背面側の放射音強度 (右図)